COMMENTS
HETZELIANER

1990ニューイヤーコンサート (VTR)
ズービン・メータ指揮

1990ニューイヤー(LDジャケット)

するめいか的!ズービンのニューイヤー

偶数年がヘッツェル、奇数年がキュッヒルというふうに、この頃は両者が交代でコンマスを務めていたニューイヤーコンサート。しかし87年のカラヤン、89年のクライバーと、なぜか運悪く奇数年に巨匠が当たってしまい、偶数年担当のヘッツェルはちょっぴり不遇だった。(その鬱憤は92年クライバー指揮のニューイヤーで発散されるわけだが、そのお話は「とっておき」なのでまた今度)

88年のアバドの時は、アバドの指揮に対してけっこう怒っているように見えたヘッツェル(あまり指揮を見ていない?)だが、ここで取り上げる90年のメータ(以下ズービンと記す)指揮の時は、ズービンに過大な期待を寄せることはすっかり諦めることにして、でも案外楽しそうに弾いている。ズービンは、指揮は大振りで音楽もアバウトなところがあるが、見かけによらず性格は繊細と見え、特にヘッツェルに対してはかなり気を使っているのが画面からも伝わってくる。88年のアバドのようなへんな抑制もしないし、自由に弾かせてくれて決め所は決めてくれるメータは、ヘッツェルにとっては、いやウィーン・フィルにとっても、だいぶ演奏しやすかっただろう。というわけで、半分ヘッツェルが乗っ取った形で和気あいあいと進行する90年のニューイヤーコンサート。地味ながらもキラリと光る曲を取り揃えてあるのも嬉しい限りで、繰り返し鑑賞する度に味わい深くなる、するめいか的なコンサートだ。

メンバー紹介

ファーストヴァイオリン1プルトのヘッツェルとヒンクというのは、92年のニューイヤーと同じ組み合わせ。ヴィジュアル的に一番楽しいコンビだ。その後ろの2プルト目がシュトラーカとエックハルト・ザイフェルト。いちばん後ろの列の5プルト目がリンケとクーン。この二人、結構カメラに映るので、その度にあまりの濃い容姿に目が釘付けだ。そして、セカンドヴァイオリンのマリオは終始ごきげんでラブリーだし、チェロのシャイヴァインは最初からずっと緊張ぎみだ。(今回ソロが多いため?)コントラバスの舞台向かって左から2番目に「新聞先生」(ゲルナー)がいるが、黄金の柱に挟まれて本当に目立たない。皆さん、注意して見てあげてください。フルート1番の「フルーリィ博士」とオーボエ1番の「ガブリエル君」の秀才コンビは仲が良さそうだ。オーボエ2番のローレンツがつまらなそうなのがちょっと気になるが、ニューイヤーの次席奏者の気分が顔に出ているだけか。あとの楽器は省略。(ごめーん)

くつろいだ雰囲気で進む前半のプログラム

ヨハン・シュトラウスのオペレッタ「ジプシー男爵」の「入場行進曲」で、90年代最初のニューイヤーの幕が開いた。ずっとダサい曲だと思っていたのに、何度も聴くうちにだんだんいい曲に思えてくる自分って一体…。ヘッツェル以下、出だしからダウンダウン(弓を返さず下げ弓で続けて弾くこと)でハリキリ。ザイフェルトがシュトラーカに目配せする美しいシーンもさっそく映る。さすがズービン、ハデハデな幕開けで盛り上げてくれた。

しかし2曲目の「モダンな女」でいきなり盛り下がる。ヘッツェルの「どアップ」があったりして映像的にはおいしいが、2曲目にしてはちょっとしっとりしすぎじゃないか?個人的にはヨーゼフ・ファンということもあり、またポルカ・マズルカというジャンルの曲からは、ポーランドやらの東欧の香りがするので気に入ってはいるが…。

次は珍しくヨハン1世の曲でガロップ「インド人」。もちろんニューイヤー初登場の曲で、ズービンがインド人だから選んだのだとは思うが、なかなか個性的で面白い曲だ。とりわけ第2主題のバックで木管がピピピピピピと音を出すのが、一時期流行った「Wチーズカレーヌードル」のコマーシャルで出てきたなんとか星人が出す光線(実はチーズ)みたいで愉快だ。

そしてやっと本題に入る感じで、ワルツ「ドナウの乙女」の登場だ。「美しく青きドナウ」がメジャーすぎるので、むしろ「ドナウの乙女」を激しく応援したい。こんなにいい曲がニューイヤー初登場の曲だなんて信じられない。前奏が終わった後の第1主題、ヘッツェルの考え抜かれたボーイングに脱帽。滑らかなこの旋律を表現するのに適した「弓使い」という意味での「ボーイング」も完璧だ。ついつい涙腺が弛んでしまういい曲・いい演奏で、この日のコンサートの山場と言ってしまってもいいような気がする。

その後「スポーツ・ポルカ」で息抜きして、あっさりと前半のプログラムが終了してしまう。まぁ、お客さんはみんな休憩時間も楽しみに来てるので、とりあえず休憩して、後半たっぷりと真剣に楽しもうじゃないか、といったところだろうか。

シャイヴァインのソロ、ヘッツェルのソロ

スッペ作曲「ウィーンの朝、昼、晩」ではチェロトップのシャイヴァインにスポットライトが当たる。この曲には彼の「どソロ」があり、気の毒なほど必死に働く姿をじっくり鑑賞できる。十分うまいのになぜか必要以上に力んで弾いてしまう彼。今回のソロにもハラハラさせられっぱなしで、「これでおしまいっ」という最後の上昇し切った音で思わずちょっぴり外してしまったのだが、これがかえって人間的でいじらしかった。こんなに上手いのに全然嫌みじゃないチェリストって、なかなかいないものだ。そして、彼は本当にいい歳の取り方をしたと思う。かっこいいぜ。

余談だが、90年のニューイヤーのCDは、なんとこの名演奏が(時間の関係からか)収録されていない。同じソニーから同時期にメータ&ウィーン・フィルの組み合わせでスッペ序曲集が出ているのだが、コンマスがヘッツェルでない。しかもチェロのソロもたぶんシャイヴァインではない。とにかく、90年のニューイヤー持ってない方は、DVDが廃盤にならないうちに買った方がいいと思います。(余談終わり)

次に再びヨーゼフのポルカ・マズルカで、曲名は「思いやり」。これもお初の曲で、なんともまぁ「気ぃ使い」のズービンらしい選曲だ。まさにこの曲の最後の音の伸ばしで、ちゃーんとヘッツェルに合わせるズービンの「思いやり」は必見だ。

そして待ちに待ったワルツ「ウィーン気質」。「やったぁ、ヘッツェルの超貴重なソロ映像が見れるぅ!」と思ったら、これがへんちくりんな踊りの映像で埋め尽くされて、一瞬もヘッツェルが映らなかった。マジがっかり。またこの踊りが人をバカにしたような踊りで、マッドサイエンティストが変な演技をしてふざけたり、ワカメがからまった水死体みたいな女がいっぱい出てきてぬめぬめした踊りを披露したりと、阿呆らしい限り。「ガーン」とうちのめされているうちに曲が終わってしまう。このことを考えると、まったく、悔しくて夜も眠れないぜっ。

徐々にヘッツェルの顔に笑みが・・・

LDではここからSIDE2となっているが、意外とスロースターターのヘッツェルの調子が上がるのはこのあたりから。ニューイヤーにしては生真面目すぎた彼も、だんだん頬が弛んでくる頃だ。

ポルカ「破壊」は、1858年のウィーンの城壁の取り壊しとリンクの完成にちなんだ曲。LDの解説書には「東西ドイツをへだてたベルリンの壁がこわされた年度のニューイヤー・コンサートにとって、象徴的な選曲といえるだろう」とある。(藁科雅実氏記す)なるほどと思うが、曲の雰囲気は破壊とは全くかけ離れた優雅な曲だ。どちらかというと、破壊されてしまった城壁を惜しみ、でも新しいウィーンに期待をしよう、でも昔が良かったなぁ…みたいな感じに聴こえる。

次の「突進ポルカ」(ポルカが多いのもズービンの特徴)も小粒だけどいい曲。そして今回のコンサートの本当のメイン、いよいよ「ウィーンの森の物語」が始まる。素敵な物語が今から本当に始まりそうな魅惑的な序奏に続き、ツィターの独奏がポロリ。大昔、クナッパーツブッシュがこの曲を演奏した時は、クナに負けないほどツィターも個性的で甘口だった。今回はサラッとしてフレッシュなホイリゲワインのようなソロで、ウィーン・フィルの演奏だけじゃなくて、ツィターまでモダーンになってしまったのか、とちょっぴり寂しくなった。観光客向けのような曲だが、5つものワルツを経てツィターソロが戻ってきた部分など、やっぱりほろりとしてしまう。

後はお馴染みの「トリッチ・トラッチ・ポルカ」(ヘッツェルはこの曲を88、90、92年と毎回弾いている!)と「爆発ポルカ」で予定された曲は終了。「爆発ポルカ」の最後には、舞台上のオルガン部分に仕掛けられたクラッカーが爆発して、紙吹雪がステージ上に降り積もった。ズービン始め、メンバーのみんなが紙まみれだ。CDのジャケットにはこの時の写真が使われているが、注目したいのは我らがヘッツェル。ヴァイオリンのf字孔に紙吹雪が入らないよう、ヴァイオリンを裏向きにして持っているのがばっちり映っている。どんな時でも冷静なヘッツェル。そのくせ山で転んで亡くなるなんて、あぁ…。

アンコール

さてさて聴衆にアンコールの曲目を告げるズービン。アンコールはポルカ「短いことづて」だ。さっと振り返り指揮棒を振り上げ、しかしここでセカンドヴァイオリンのマリオに小さなハプニングが発生。ヴァイオリンの弦に紙吹雪がくっついて弾けないじゃないか!急いでフーフーと息を吹き掛けて落とそうとするマリオ。かわいい事件であった。

続いてお決まりの「美しく青きドナウ」では、恒例のイントロでの拍手を受け、演奏を中断し聴衆に向き直るズービン。その時のゆったりとしたオカマ的立ち居振る舞いがやたら笑える。聴衆もやんやの歓声で応え、「フルーリィ博士」と「ガブリエル君」が「ズービン、受けて良かったね」(注:勝手な想像です)と相づちしあう。年頭の挨拶を済ませ、改めてヘグナーをはじめとするホルンセクションのイントロが鳴り響く。ホルンにとっての最大の聴かせ所だが、今日も夢のように素晴らしい。ズービンの「ドナウ」は、やはり作為の全くない自然な演奏で、安心して堪能できる。演奏後も、クライバーの時のような熱狂的な拍手とはいかないものの、満ち足りた聴衆の暖かい拍手が会場を包む。

ラストの「ラデツキー行進曲」では、観客の拍手まできっちり振ってサーヴィス満点のズービン。あまりに真面目な顔を観客に向けているので、前の方の客は思わず大笑いしている。最初から最後まで、お気楽で打ち解けた雰囲気の、素敵なニューイヤーコンサートだった。これはズービンの大きな功績だ。

(Gerade Weiher 24. Apr 2002)

Copyright (c) 2002 Hetzelianer