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ヘッツェリアーナの思ひ出


- ウィーンフィルの名コンサートマスター ヘッツェル(2) -

 はじめてヘッツェル教授の演奏を聴いたのは1979年の4月、大阪天満橋のあるホールというか公会堂のような所だった。ヴィエールフィルというオーケストラをバックにしたモーツアルトの協奏交響曲だった。(ヴィオラはシュトレンク教授)

 狭い舞台にすっと立った立ち姿から私は魅了されてしまった。そこにいるだけでみんなを包み込んでしまうという雰囲気を持っていた。気品と威厳が上手にかみ合っている感じだった。なんというかこういう人に呼ばれたら、直立不動になってしまうような、それでいて心から尊敬できるような人という印象だった。

 最初の一音から私はこの世の音にはとても思えなかった。なんか天使が教授の中に住んでいて、最初のオーケストラの序奏の間に目を覚まし、ヴィオラの独奏に応えて天使が話しはじめたとしか聴こえなかった。どんな早いパッセージにいっても一音一音がはっきりとしながらもやわらかい、絹のような手触り・・・それでいて骨太な音だった。ボーイングも完璧、弓の毛か弦に蝋か油が塗ってあるかのようななめらかさ、物理的な摩擦とは異次元だった。弓の返しの時の手首と指の動きにはため息が出た。自分たちが練習して・・とか全然違う世界だった。

 教授の音は私の背骨の中にしみ込んでいった。曲が終わっても現実に戻れなかった。

 演奏会の最後に、オーケストラがウィンナワルツを演奏し、教授は第一ヴァイオリンのトップサイドで弾かれた。譜めくりもされた。私はこのコンサートマスターにこの一瞬だけなりたかった。教授がトップサイドで弾く姿を見たのは最初で最後だった。

 夜の春風と淀川の水の匂い、そして教授のモーツアルトが重なりあっていた。現実と夢が入り混じった不思議な一夜だった。

( 11. Dez. 2005 窓 開太郎 )

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