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HETZELIANER


Die Pilgerfahrten


巡礼の旅 第3話 - ユーゴスラヴィア料理店の夜は更けて -

 ハンガリー系のヘッツェルだが旧ユーゴスラヴィアのノヴィ・ヴェルパスで生まれたという。いったいどんなところだろうか?今回の旅ではさすがにそこまでは行けないのでせめて気分だけでもと思い、ウィーン滞在2日目、なかばむりやりTを誘って17区にあるユーゴスラヴィア料理店「ボドゥロ」へ晩飯を食べに行くことにした。宿のスタッフに行きかたを訊ねるとパソコンで検索してプリントアウトしてくれた。その情報によると、西駅近くにある宿からは少々遠くにあるらしいのだが……。
Fischrestaurant Bodulo

Adresse: 1170 Wien, Hernalser Hauptstraße 204
Telefon: 486 43 11
Kreditkarten: VISA, MasterCard/Eurocard

 外へ出ると横殴りの雨と風。飛びそうになる帽子をあわてて押さえる。目的地へは地下鉄(U6)と市電(43番)を乗り継いで行く。市電の改札を出た頃にはいよいよ天気は最悪になり、傘を盾に進みながら大声で喋る我々はさながら台風リポーターである。2月の嵐の晩に出歩く酔狂な人間は我々くらいとみえ、ほとんどすれ違う人もいない。やたら広い通りなのに店も少なく灯りも乏しい。かなり心細くなってきた。

 「ボドゥロ」は大通りに面して1階に店を構えていたが、外から中の様子を窺い知ることができないため、入る勇気がなかなか湧いてこない。でもせっかくここまで来たのだ、行くしかない。気合いをいれて突入した。しかしすぐに「これはうまい店に違いない」と直感。入ったところにガラスのショーケースがあって、いかにも新鮮、とれとれのぴちぴちです、といった感じの魚介類が積まれていた。目は透きとおり色も鮮やか、やはり日本で見る魚とは似ているようでちょっと違う。魚の横にはいかにも現地風のお惣菜がいろいろ並んでいる。奥を見ると、店の外があんなにもがらんとしていたにもかかわらず、意外なほど賑わっていた。もちろん現地の人ばかりだろう。どこから見ても観光客風の我々はちょっと場違いだったかな?と、また不安になる。


 席に着くとまゆげが濃くてちょっとMr.ビーン似の若い店員がメニューを持って来た。飲み物を注文する。彼は次にやって来ると、無言のままにこりともせずどんぶりに山盛りの黒オリーヴを置いて去っていった。はっきりいって恐い。やっぱりよせば良かったかな?気を取り直してその黒オリーヴを一口かじってみる。種入りの素朴な漬け物だ。食べ慣れない、塩辛く濃厚な風味。3つが限界という気がするが、皆本当にこれを食前に山盛り平らげるのだろうか。うーむ。


 品書きを開いてみると地元の人しか来ないのかドイツ語のみである。困った。種類も分からない魚をどうやって注文しようか。それに料理法は?あわてて会話集を取り出したところへ再びあの無表情な彼が来た。あまり待たれるとそのしーんとした間が耐え難いので、おそるおそる「……おすすめは?」と尋ねてみる。すると彼は眉ひとつ動かさず厳かに言い放った。

" Fisch (魚)!"

 さすがにそれは分かってるって……。質問が悪かったかな。しかし力が抜けてこれ以上何も訊く気が起こらなかったので、唯一なんとなく意味が想像できた「海の幸の盛り合わせボドゥロ風」セット(2人分)を注文した。


 ビールを飲みながら待っていると、しばらくして奥の厨房からダダダダ……と物凄い音が聞こえてきた。スネア・ドラムのロールよろしく相当長いこと叩き付けている。それは中華の料理人がやるように両手に包丁を一本ずつ持って連打してみじん切りしている姿を想像させた。今調理しているのが我々の頼んだ分なら、いったいどんなものがでてくるのだろうか……。


 ほどなく、銀色に光る楕円形の大きなプレートが運ばれて来た。上には小海老、いか、鮭、小鯛のような魚、プリプリした白身の深海魚。3人前くらいあるだろうか。これらはグリルまたはボイルされていて、上からみじん切りにした生のニンニクとオリーブオイルが大量にかけられている。それらシーフードのまわりに、付け合わせの湯がいたほうれん草を細かくたたいたもの(先ほどの連打はこれか!)、それにじゃがいものボイル。この味付けもやはりニンニクとオリーブオイルであった。全部おんなじ味かい!しかし素材がとびきり新鮮なので文句なくうまい。イタリア料理に近い感じだ。


 Tも私もよく食べる方であるが、平らげるのにかなり苦労した。食べ終わっても苦しくてすぐには席を立てないくらいである。勘定を済ませ、上着を着て店を出る。嵐はおさまっていたが、気がつくとマフラーがない。店に忘れたかと思ってすぐに戻ったがやはりなかった。どうやら先程の台風リポート中に飛ばされたようだ。肉をこよなく愛するTに食後の感想を聞いてみると、「魚料理を見直した」とのこと。最大の賛辞といえよう。しかし当然の結果として、翌日は爆発的ニンニク臭を周囲にまき散らしながらのヘッツェルの墓所へのご挨拶と相成った。

( 29.05.2002 Walter Bibilly ) 

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